杉咲ちゃん

カラコロコロ

トラとかぎちゃん夫婦が連れてきた子猫は最初3匹でしたが、
じきに1匹しか姿を見せなくなりました、
それが杉ちゃん、
ころんと曲がったかぎしっぽは母猫
かぎちゃん似、しっかり頭を上げて堂々と歩いていると
父猫譲りの風格、でもいつも元気で飛び跳ねています。
母猫かぎちゃんが、次の子産みのシーズンになって
親子は玄関で食事をとるとき以外は、別々に行動するように
なりました。
その頃、テオ家は息子が山の向こうに転勤、
娘は嫁ぎ、テオット単身赴任、ゼロと私の静かな夜ふけ、
からっぽの車庫から、しきりとカラコロコロ、
なにかを転がす音が聞こえます、なんだろう、
そおっとカーテンの隙間から月明かりに透かして見たら
子猫が遊んでいます、テオットがゼロにお土産と言って
アパートからわざわざ持ってきた、フィルムケースでした。
無くしたと思っていたら、車から降りるとき落としたようです。
生後半年たらずで、母猫から独立して、ひとりでも
あんなに元気にコロコロ遊ぶ杉ちゃん、なんて健気なんだろう
枕を半分占領して、くうくう眠るゼロ 同じ年頃なんだよねー

女の子だった (^^ゞ

いつも元気いっぱい、ちょっともじっとしていない、
玄関のお皿にフードを出すと、母ちゃんの言いつけだったので、
かたちだけ「シャッ」威嚇して、すぐにお皿に頭をつっこんで
食べて、食べ終わるとまた杉の垣根の陰に潜り込む、
鼻筋と耳が鮮やかな杉茶色、それで、てっきり男の子だと
思って「杉作」と名付けました、が、
ご飯を食べているときにぴったり塞がれたしっぽの下を
覗いてみたら、女の子でした。 
それで、杉咲(すぎさく)ちゃんと改名しました。

赤みがかった杉茶色の地色に
くっきりとした黒い模様、
足の先には真っ白いスニーカー、
美猫 杉咲ちゃん

ふみふみ

猫がときおり前足の開いたり閉じたり、ぐっぱあして毛布や柔らかいところを
ふみふみするのは、お母さん猫のおっぱいを揉むしぐさの名残、
甘えているとき、不安なとに、赤ちゃん還りする現れなのだそうです。
ゼロも白い毛布をよくふみふみします。
かぎちゃんが事故死してしばらく経ったある日、ゼロと私が縁側で
ひなたぼっこしていたら、ガラス越しに杉ちゃんが来ました、
うにゃうにゃおしゃべりしながら、あっちこっち撫でてもらっているゼロ、
それを見ていた杉ちゃんの前足、コンクリートの縁先を、ふみふみ・・・・
やんちゃな杉ちゃんでしたが、やっぱり母ちゃんは恋しいんだよね、
鼻の奥がつーんと痛くなってしまいました。

父猫の愛情

まだ子猫気分が抜けていないような杉ちゃんでしたが、
繁殖のシーズンになると、家のまわりがにわかに騒々しくなりました
どこからともなく、飼い猫、野良猫、普段は見かけない雄猫達が
集まってきて、杉ちゃんを追い回します、小柄な杉ちゃんは
物置き小屋の縁の下に逃げ込んでいますが、食事をとりに出ることも
できません、多いときは5匹もが杉ちゃん争奪戦でした。
どうしよう、かわいそうに餌場に出てくることができない。
と、そのときでした、父親トラが現れて、若い雄猫達を一睨み、
追い払って、杉ちゃんが食べ終わるまで、しっかり見張りを
したのです。
動物の世界では親と子との間に孫猫が生まれるというのは
めずらしくないと聞きますが、トラじいは杉ちゃんを父親として
見守っているふうでした。
杉ちゃんが食べ終わるのを見届けると、
やはり自分は食べずに、ふらりと立ち去ったトラじいでした。

おじちゃん みててね

騒々しい季節が過ぎて、杉ちゃんはふたたび悪戯三昧の
やんちゃ猫になりました。
私が廃品回収に出す新聞紙を縛るために、玄関にナイロンロープを
置いたら、その端をくわえて駆け出した杉ちゃん、家の周りを
ロープでぐるっと縛ってくれました。
そして、テオットがタバコを吸うために外に出ると、必ずちょこちょこ
足元に近づいて、芝生を掘り始めて、、、するんです、ウンコ、
無防備な姿をとらざるを得ない、そこで毎晩ほぼ定時に庭に出る
テオットをガードマンとして雇ったというわけです、
そのことに気づいたテオットは、それ以来
杉ちゃんをかわいがるようになりました。

ヤンママ杉ちゃん

ハイジャンプが得意で、物をくわえてあちこち運ぶのが趣味?の
いたずらっこ杉ちゃんでしたが、野良猫の社会では
いつまでも子供でいることは許されず、心配して見守るうちに
杉ちゃんは2回、身ごもりました、そのうち育ったのは1匹きり。
亡くなったかぎちゃんの言いつけを良く守って、とても用心深い
彼女は、産む前後は1カ月ほど、人間に姿を見せません。
あの時も、もっと隠れている予定だったのが、2年前の8月、
全国的に大災害をもたらした、台風の豪雨の日でした、
家を揺るがすようにどうどうと降っていた雨に混じって
あうあうと杉ちゃんの声、玄関に出てみたら、口に雨水の滴る
ぼろのような物をくわえていて、子猫でした。
びっくりしてタオルを持ってきて小さな子猫を受け取って
拭いてやったら、安心したように自分のぐしょ濡れの毛を
舐め始めた杉ちゃんでした。

みいみいみい

大雨で畑も空き地も水浸しになった団地で、次に杉ちゃんが
確保した隠れ家は、私の家の車庫の軒と屋根の隙間、
そこは去年椋鳥が巣をかけた場所です。
あんなところによくもまあ、子猫をくわえて上がったものだと
感心しました、近所の腕白どもが、きょろきょろ探しても
見つかりません、日頃私の作業手袋やタワシをくわえて
運び屋杉ちゃんしてたのは、子育てに十分生かされて、猫達の
遊びは生き抜くための学習なんだと知らされました。
近所の人に「どこかで、子猫の鳴き声がするけど」と言われて
「さあ、そうですか?」とぼけてごまかしたテオ。

子離れ

杉ちゃんの懸命な子育てで、子猫は4カ月もすると、早くも
将来の勇姿を思わせる、立派な姿になってきました、と、玄関には
杉ちゃんだけが来るようになって、子猫が見あたりません、
杉ちゃんに聞いても心配そうな様子はなく、どうしてしまったんだろうと
訝っていたところ、ある日うちの畑の向こうから子猫が、こちらに来ようと
しています、すると杉ちゃんの鋭い威嚇の声、
子猫を追い払ったのは、他でもない母猫の杉ちゃんだったのです、
あまりにきっぱりとした子離れに、圧倒されました。
親として、やるべきことはすべて教えた、あとは自立して行くが良い、
人間でここまで潔くできるだろうか、すばらしい猫達です。

そのことがあって後、杉ちゃんを捕獲して避妊手術をさせてもらいました。
篭の中で大暴れして怒る杉ちゃん、麻酔で朦朧とした杉ちゃんに
「ごめんね、おばちゃんの方が耐えられなくなっちゃったの
雄猫達に追い回されたり、死産した子猫をくわえてうろうろ
歩き回ったり、そういう苦労は、もういいのにしようよね」
トラじいの跡継ぎになりそうな子を、1匹育て上げたことで
許してほしいと杉ちゃんに、トラじいに、謝りました

穴掘り杉ちゃん
ぐうたらの私ですが春には花を見たいので、草ぼうぼうの畑を耕して、
チューリップの球根を植えました。
私が作業をするときには、必ずちょこまかと見物する杉ちゃん、
ふかふかに耕したばかりの土を掘り始めます、ウンコですね、
杉ちゃんの穴掘りは、ちょっとそんじょそこいらの猫と違うんです。
まず、片手でちょっと掘る、掘った穴をじっと見る、
くるりと後ろ向きになって、片足を入れてみる、ちょっと考える
またちょっと掘る、もう一回足で大きさ、深さを確かめる、
それから、ジャストサイズのをなさるんです。
足のモノサシできっちり計るんですよ、几帳面にして計画的な
こだわりの杉ちゃんです。